イエスとコミュニケーション

イエスとペトロ ~もう一度、キリストと出会う旅

· キリスト教,NVC

聖書の中のコミュニケーション

 『いのちにつながるコミュニケーション』の第三章には、「聖書の中のコミュニケーション」というタイトルで、聖書の物語の中のコミュニケーションについて読み解いています。

 聖書の中で、イエス・キリストがどのようなコミュニケーションをとっていたのか。また、どのように人々と関係を紡いでいったのか。聖書のメッセージは、人間関係とコミュニケーションについて、何を伝えているのか。研究会で最初に取り組んだのは、「わたし」「わたしとあなた」「コミュニティ」「世界」という切り口で、聖書を読むということです。これらの切り口は、研究会の初回のミーティングに決まっていました。私たちが最初に執筆したのは、第三章でした。2018年のことです。

 これはあくまでも仮説でしたが、聖書の中には、自分との関係、他者との関係、コミュニティの関係(私たちの場合、教会共同体を含みます)など、人間関係について明確に書かれていると考えていたのです。そして、NVCを学んでいた3人は、それらの神からのメッセージとNVCのフレームは、どこかでつながっているのではないか、というぼんやりとした想定があったように思います。

もう一度、聖書の中のイエス・キリストと出会う

 第三章の土台となった文章は、2018年度の研究紀要で発表することを予定していました。ですから、執筆は2018年10月くらいから始まったのではと記憶しています。司祭でも牧師でもなく、聖書学を特別に学んだわけでもない私が書けるものだろうかと感じていました。しかも、ペアを組んで共に研究を進めるはずだった牧師先生が体調不良のため、私たちの担当分を一人で取り組むこととなり、さらに心細い状況になってしまいました。
 しかし、その執筆の過程はイエス・キリストともう一度出会う旅となりました。今でも、どうしてそのような旅ができたのかわかりません。幼いころからよく読んだり聴いたりしてきた聖書の物語が、いきいきとした人間たちの関わりの物語として迫ってきました。その中で人々と関わり、語るイエスの姿も、一層鮮明に見えてきたように思います。

 実はその年の9月、私の長男が2年3ヶ月の闘病の末に天に召されていたのです。肉体的にも、精神的にも、原稿が書けたことが本当に不思議です。支えられていた、としか思えません。
イエスとペトロのつながりの変容

 特に執筆して印象的だった箇所は、イエスとペトロの関係の物語です。

 聖書に親しんでいる方はご存知かと思いますが、ペトロは実に人間臭く、大真面目でありながら、そそっかしくて憎めない存在です。聖書の中には、そんなペトロの姿があちこちに書かれていて、私は結構気に入っています。

 今回の本の中では、復活のイエスがペトロと再会する場面を選びました。そこでは、イエスとペトロの和解、つながりの変容が起きます。辛く困難なときをくぐり抜け、自分の愚かさと弱さを痛感していたペトロが、自らの無防備さの中からもう一度イエスと出会う姿は胸に迫ります。

 続きは本の中でぜひ読んでいただきたいのですが、聖書の物語の中で、こうした新たな再会、発見をたくさんさせていただいたことは、私にとってとても幸せなことでした。

 私たちの本を手に取ってくださる方は、もしかするとキリスト教とはあまり関わりのなかった方もおられるかもしれません。それでも、2000年以上読み継がれているロングセラーには、読み継がれるだけの真理があると思います。ぜひ楽しんで読んでいただけたら、と願っています。